医療DX推進工程表 全体像

2023年度〜2030年「概ねすべての医療機関で電子カルテ導入」までの俯瞰ガイド

出典:厚生労働省「医療DXの推進に関する工程表」(第2回医療DX推進本部 令和5年6月2日)

5目的
4主要施策
2030最終目標年
3+6共有する文書・情報
医療DX シリーズ: 目次 ★ ① 工程表 全体像(本編) ② 法規制対応と技術要件 ③ 受注資格 ④ セキュア実装 データインテグリティ AI 活用移行FHIR/JLAC11FAQ・用語集

基本的な考え方

なぜ国家政策として医療DXを推進するのか

医療DXに関する施策の業務を担う主体を定め、その施策を推進することにより、①国民のさらなる健康増進、②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供、③医療機関等の業務効率化、④システム人材等の有効活用、⑤医療情報の二次利用の環境整備 ── の 5 点の実現を目指していく。

サイバーセキュリティを確保しつつ、医療DXを実現し、保健・医療・介護の情報を有効に活用していくことにより、より良質な医療やケアを受けることを可能にし、国民一人一人が安心して、健康で豊かな生活を送れるようになる。

5 つの目的の構造

「5 つの目的」は対等に並んでいるわけではなく、ゴール層 + 手段層 + 1 つの横断条件に整理できる。

ゴール層 — 国民にとって達成したい状態
  • 国民のさらなる健康増進
  • 切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
▲ そのために
手段層 — 医療機関・社会にとっての改革
  • 医療機関等の業務効率化
  • システム人材等の有効活用
  • 医療情報の二次利用の環境整備
━━━━━━ 横断条件 ━━━━━━
すべてを支える前提
  • サイバーセキュリティ確保(医療情報システム安全管理ガイドライン)

「手段」を目的に昇格させた意味

政府が抽象的な理念(健康増進・質の高い医療)だけでなく 「業務効率化」「人材活用」「二次利用」という具体的な手段 まで目的に格上げした理由:

タイムライン 2023→2030

年度タブをクリックすると、その年に動く施策の詳細が表示されます

マイナンバーカードと健康保険証の一体化

全国医療情報プラットフォームの構築

自治体・介護事業所との連携

診療報酬改定 DX

二次利用の検討開始

マイナ保険証への一体化(大きな節目)

全国医療情報プラットフォーム

自治体・介護との連携

標準型電子カルテ

診療報酬改定 DX

電子カルテ情報共有サービス 運用開始

電子処方箋の全国普及(目標)

標準型電子カルテ α 版

自治体・万博連携

共通算定モジュール α 版

全国医療情報プラットフォームの全国運用

自治体システムで以下が 全国的に運用される:

標準型電子カルテ 本格実施

共通算定モジュール 本格実施

共有情報の継続拡大

最終ゴール(令和 12 年度)

その先に目指す姿

4 つの主要施策

クリックで詳細展開 — 工程表の本体を構成する 4 つの柱

1
マイナンバーカードと健康保険証の一体化
健康保険証 → マイナ保険証へ(2024年12月に新規発行停止)

狙い

窓口での本人確認・資格確認を電子化し、保険資格と患者識別を統合。重複した手書き作業や薬の重複処方を防ぎ、医療現場の事務負担を減らす。

主要マイルストーン

  • 2023 年度:オンライン資格確認の原則義務化、生活保護(医療扶助)対応
  • 2024 年度:訪問診療等で運用開始、スマホ資格確認運用開始
  • 2024年12月:紙の健康保険証の新規発行停止(既存証は最長1年使用可)
マイナ保険証の本人特定の中身: オンライン資格確認システムで読み取った「資格確認 ID」が、保険資格確認 + 患者識別を兼ねる。保険変更があっても同一人物識別が継続する設計。

なぜ重要か

  • 全国どこの医療機関でも同じ ID で本人を一意に特定できる基盤
  • 他の 3 つの柱(情報共有・標準化・診療報酬 DX)すべての前提となる
  • マイナンバー(番号法で医療現場利用不可)を直接使わず、医療目的の代替 ID として設計
2
全国医療情報プラットフォームの構築
各機関の医療情報を国全体で共有する公共インフラ

狙い

病院 A で取った検査値・処方情報を、患者の同意のもとで病院 B が見られる仕組み。重複検査削減、医療安全(アレルギー回避)、災害・救急時の即時参照、本人による健康管理(PHR)まで可能になる。

構成要素(4 つの公共サービス)

  • オンライン資格確認システム:本人特定の基盤(柱 1 と接続)
  • 電子処方箋管理サービス:処方情報の電子流通(2023 年から稼働)
  • 電子カルテ情報共有サービス(仮称):3 文書 6 情報の共有(2025年度モデル事業開始、全国本格運用は2026年度冬を目標)
  • 公費負担医療等のオンライン資格確認(PMH):自治体施策との連携

主要マイルストーン

  • 2024 年度:電子処方箋の普及推進、救急時医療情報閲覧の運用開始
  • 2025 年度:電子カルテ情報共有サービスのモデル事業開始(全国本格運用は2026年度冬を目標。診療情報提供書、退院時サマリー、検査値、アレルギー、薬剤禁忌、傷病名 等を共有)
  • 2026 年度以降:自治体施策(予防接種、母子保健、介護、検診、感染症届出)の全国運用
技術標準: HL7 FHIR(JP Core プロファイル)を採用。医療情報を Web の REST API + JSON で交換する国際標準。検査値は JLAC10/JLAC11(日本の臨床検査標準コード)と組み合わせて運用される。

二次利用(研究・産業活用)

2023 年度中に検討体制を構築。匿名化/仮名化された情報を、創薬・公衆衛生研究・AI 医療応用などに活用する制度設計が進行。EU の EHDS(European Health Data Space)も参考にしたデータ基盤の構築が進む。

3
電子カルテ情報の標準化等
2030 年までにすべての医療機関で電子カルテ導入 + 共有可能な形式へ

狙い

現在は病院ごとに別々の電子カルテが入っており、フォーマットも内容もバラバラ。これを標準化して相互運用可能にし、未導入の中小医療機関にも普及させる。

2 つのアプローチ

  • 既存電子カルテの標準化:標準規格(HL7 FHIR JP Core)への対応を進め、医療情報化支援基金で導入支援
  • 標準型電子カルテの新規提供:未導入の医療機関向けに、国が標準化された電子カルテのα版を提供(2025 年度)→ 本格実施(2026 年度〜)

主要マイルストーン

  • 2023 年度:透析情報、アレルギー原因物質コードの標準化
  • 2024 年度:蘇生処置、歯科・看護領域の標準化、標準型電子カルテ開発着手
  • 2025 年度:標準型電子カルテ α 版提供開始
  • 2026 年度〜:本格実施フェーズ
  • 2030 年:概ねすべての医療機関で電子カルテ導入
標準化の中身: 「箱」(FHIR JP Core のリソース構造) と「中身」(JLAC10/JLAC11 / YJ コード / レセプト電算コード / 病名マスタ) の両方を国が同時並行で整備。両方揃って初めて電子カルテ情報共有サービスが機能する。
4
診療報酬改定 DX
医療機関等システムを「モダンシステム化」して間接コストを極小化

狙い

診療報酬改定のたびに、各医療機関・各ベンダーが個別にシステム改修している現状を変える。共通の「マスタ」と「算定モジュール」を国が提供することで、改定対応の負担を医療機関・ベンダー側から国側へ移す。

主要コンポーネント

  • マスタ(共通言語):医薬品コード、レセプト電算コード、検査コード等の標準コードセット
  • 電子点数表:診療報酬の算定ルールをコード化したもの
  • 共通算定モジュール:診療報酬を計算する「エンジン」を国が提供 → 各システムに組み込む
  • 標準型レセコン / 標準型電子カルテ:共通算定モジュールを実装した標準パッケージ

主要マイルストーン

  • 2023 年度:マスタ開発・改善、電子点数表改善、共通算定モジュール設計・開発
  • 2024 年度:マスタ・電子点数表改善版の提供開始
  • 2025 年度:共通算定モジュール α 版を先行医療機関で運用
  • 2026 年度〜:共通算定モジュール 本格実施、機能拡張しながら医療機関数を拡大

診療報酬改定の施行時期

改定対応の負担軽減のため、改定の施行時期の後ろ倒しについても中央社会保険医療協議会で議論中。

共有される医療情報:3 文書 6 情報

電子カルテ情報共有サービスで医療機関・薬局・本人の間で流通する情報

「3 文書」は 医師が作成する物語的・複合的な文書。「6 情報」は 構造化された個別データ項目。両方を共有することで、物語と個別データの両方が活用可能になる。

3 文書(物語的・複合的)

健康診断結果報告書
健診結果(血糖値、コレステロール、血圧 等)
例:定期健診・特定健診・人間ドックの後
診療情報提供書(紹介状)
病状、既往歴、処方歴、検査結果のまとめ
例:かかりつけ医 → 専門病院、地域病院 → 大学病院
退院時サマリー
入院経過、手術内容、退院時の状態、退院後の指示
例:退院後に在宅医・リハビリ病院へ引き継ぎ

6 情報(構造化データ)

傷病名
患者の病名(診断名)
例:「2 型糖尿病」「高血圧症」
感染症
HIV、肝炎、結核などの感染症の有無
例:HBV+, HCV-, HIV-
薬剤アレルギー
薬への副作用・アレルギー歴
例:ペニシリンアレルギー
その他アレルギー
食物・環境アレルギー
例:卵、小麦、花粉、ラテックス
検査
検体検査の結果(血液・尿・生化学)
例:白血球数、AST/ALT、HbA1c
処方
投薬情報(薬剤名・用量・用法)
例:アムロジピン 5mg 1 日 1 回

共有の流れ(イメージ)

病院 A の電子カルテ ─→ 電子カルテ情報共有サービス(クラウド・公的運営)─→ 病院 B / 薬局 / 患者のスマホ(マイナポータル)

患者本人が 同意すれば、別の医療機関から自分の医療情報が見える。災害・救急時には特例として閲覧可能。研究・産業活用は別ルート(仮名化処理後)で実施。

サイバーセキュリティの位置づけ

医療情報は最も繊細な個人情報の一つ。工程表では 「サイバーセキュリティを確保しつつ」 がすべての施策の前提条件。各医療機関は厚労省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第 6.0 版)を、システムベンダーは総務省・経産省共同ガイドラインをそれぞれ遵守する。2027 年度(令和 9 年度)に稼働が想定される医療情報システムを新規導入・更新する場合は、原則として二要素認証の採用が望ましい(努力規定)

実施主体:誰がこのプロジェクトを担うのか

社会保険診療報酬支払基金の抜本改組

これだけの規模のプロジェクトを推進するには、開発・運用を担う責任主体が要る。工程表では 「社会保険診療報酬支払基金」を抜本的に改組して、医療 DX に関するシステムの開発・運用の母体とすると明記された。

これまでの支払基金
レセプト(診療報酬請求書)の審査と支払いに特化
改組後の支払基金
審査支払 + 医療 DX 関連システムの開発・運用主体

改組の論点

4 つの公共サービスを誰が運営するか

改組後 支払基金が運営
4 統合される公共サービス
2030 基盤完成目標

オンライン資格確認 / 電子処方箋管理 / 電子カルテ情報共有 / 公費負担医療等 PMH ── これら 4 つの公共インフラを改組後の支払基金が一体運営することで、医療 DX 全体の統合運用主体が確立する。

2030 年のゴール

医療 DX 工程表が描く到達点

遅くとも 2030 年、概ねすべての医療機関で電子カルテ導入

5 つの目的との対応

2030 年の状態は、冒頭の「5 つの目的」をまとめて実現した姿だ:

その先 — 制度の固定化

工程表(令和 5 年 6 月策定)はあくまで「行政計画」だが、2025〜2026 年に 医療法等の改正法案 として国会に提出され、法律で固定化される予定。これにより、医療 DX は「任意の取り組み」から「法律で位置づけられた制度」へと変わる。

ABOUT

本シリーズは、医療情報システムの開発・クラウド化を手がける X Harumi が、公的な一次資料を根拠条項まで遡って再整理したものです。AI 活用支援・業務効率化・DX 推進・システム開発を提供しています。

最終更新:2026-05-25 / 次回レビュー目安:2026-08-31 / © X Harumi